COLOR GRADING — WHY IT MATTERS
4行で言うと
1. カラーグレーディングは「色を綺麗にする作業」ではなく、バラバラな照明の色を揃えて、そのうえで作品としての色を作る工程です。展示場は照明の色が場所ごとに違うため、これをやらないと同じ白い壁が部屋ごとに違う色で映ります。
2. そのために撮影段階から「色を決めずに情報だけを記録する」設定で撮るので、データ量が通常の約2倍になります(今回は2本で500GB想定)。
3. 工程は3つ増えます(プロキシ作成・カラーグレーディング・素材の置き換え)。ただしグレーディングはカット編集と並走させるため、スケジュールが直列に伸びるわけではありません。
4. 負担がかかるのは編集側だけではありません。撮影当日の手間も増えるため、見積では編集費だけでなく撮影費も上げています。
いちばん近いのはフィルム写真の例えです。
図1 撮って出しは「焼き上がったプリント」、Log撮影は「ネガ」。ネガは地味に見えるが、後から明るさも色も決められる
ここがポイント
Log撮影した素材は、そのままでは商品になりません。眠くて薄い、いわば未現像の状態です。これを見られる映像に仕上げる「現像」にあたる工程が、カラーグレーディングです。Log撮影を選んだ時点で、グレーディングは省略できない必須工程になります。
展示場は、1軒の中に色の違う光が混ざっています。
撮って出しだと、同じ白い壁が部屋ごとに違う色で映ります。リビングは黄色く転び、窓際は青被りし、キッチンだけ妙に白い。1本の動画の中で色が飛び回るので、全体として安っぽく見えます。
図2 カラーグレーディングは2段階。まず色を揃え、そのうえで作品としての色を作る
小堀水準・JIDAIブランドで効いてくるのはここ
設計士の思想を語ってもらう企画では、木目・塗り壁・金属・光の回り込みといった素材の質感が伝わるかどうかが作品の評価を決めます。参考にしているSUUMO系の映像が「高そうに見える」のは、この工程で質感を出しているからです。撮って出しでは同じ絵になりません。
色を決めずに情報を残すということは、その分だけ多くの情報を記録するということです。結果としてファイルが重くなります。
図3 収録設定によるデータ量の違い。今回は中間の設定を採用している
| 影響が出るところ | 具体的に何が起きるか |
|---|---|
| 撮影当日 | カードの本数・容量が増える。撮影の合間にバックアップの時間が必要になる |
| データの受け渡し | 撮影者・編集者ともリモートのため物理搬送は現行どおりだが、運ぶ量が2倍になるぶん搬送のコストと往復の時間が増える |
| 保管 | 納品後も素材を残す場合、保管用ストレージを2倍見込む必要がある |
| 編集作業 | そのままでは編集ソフトが重くて動かないため、軽い作業用ファイル(プロキシ)を別途作る工程が入る |
今回の熊本2展示場は、2本分で500GB以内に収まる見込みを撮影チームと確認済みです。
増えるのはプロキシ作成・カラーグレーディング・素材の置き換えの3つです。データの搬送・バックアップは撮影者と編集者がリモートである現在の体制でも行っているため、Log撮影によって新しく発生する工程ではありません(ただし運ぶ量は2倍になります)。
そして重要な点として、カラーグレーディングはカット編集の後ろに並べません。編集担当には先に軽い作業用ファイル(プロキシ)を渡してカット編集を進めてもらい、その裏で並行してグレーディングを行います。仕上がった素材は、編集ソフト上でリンクを張り替えることで差し替えます。
図4 オレンジの3工程が追加分。カット編集とカラーグレーディングは同時に走らせる
並走させられる理由
編集ソフト(Premiere Pro)では、カット編集を終えたあとでも素材のリンクを一度外して張り直すことで、カットの位置やテロップを崩さずに中身を差し替えられます。
そのため編集担当にはプロキシを先に渡してカット編集を進めてもらい、グレーディングが仕上がった時点で素材を置き換えてもらう流れにします。グレーディングの完了を待ってから編集を始める必要はありません。
見落とされやすいのは「撮影当日も手間が増える」こと
Log撮影は現場のモニターに映る映像も眠く見えるため、確認用の設定を当てながら撮る必要があります。露出も、後から直せる前提ではなく正しい基準で撮っておかないとグレーディングで破綻します。撮影チームにとっても通常より神経を使う撮り方になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 撮影設定 | 4:2:2 10bit Log(インサート4K59.94p/トーク4K29.97p)。カメラはLUMIX GH7 |
| データ量 | 2本分で500GB以内に収まる見込みを撮影チームと確認済み |
| 担当 | カット編集・テロップは編集担当(プロキシで作業)、カラーグレーディングは喜友名が実作業として担当。両者は並走 |
| 編集側への反映 | カラーグレーディング 20,000円/本 × 2本 = 40,000円を原価に計上(ディレクション費ではなく実作業のため) |
| 撮影側への反映 | クライアント請求の撮影費を1日50,000円 → 60,000円に増額 |
撮影費も上げているのは、負担が編集側だけではないから
この企画は編集の工程が増えるだけではありません。撮影当日の負担も上がっています。
編集費(グレーディング込み)だけを上げる形にすると、撮影当日にかかっているこの負担が価格に反映されません。そのため撮影費にも反映しています。
見積全体の内訳と粗利は 熊本2展示場撮影 見積と粗利内訳 を参照。
| よくある認識 | 実際 |
|---|---|
| 色を綺麗にするオプション作業 | Log撮影を選んだ時点で省略できない必須工程。やらないと未現像のまま納品することになる |
| 編集のついでにできる | カット編集とは別工程・別担当。工程が3つ増える(ただし並走させるのでスケジュールは直列に伸びない) |
| データ量は変わらない | 約2倍になる。搬送・保管のコストと作業用ファイルの作成が増える |
| 見た目の好みの問題 | 展示場は照明の色がバラバラなので、やらないと同じ白い壁が部屋ごとに違う色で映る |
| 負担がかかるのは編集側だけ | 撮影当日の露出管理・モニター設定・バックアップの手間も増える。そのため撮影費も上げている |
関連資料:熊本2展示場撮影 見積と粗利内訳